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ジャズ、ときどきまち歩き。音楽・映画・本とまち歩きについて書いています。

Straight Up / Bob James Trio

生のジャズをストレートに、ダークに。ボブ・ジェームス。


Art Dorection + Design: Linda Cobb & Bob James / Photo: Jeffrey Scales

Art Dorection + Design: Linda Cobb & Bob James / Photo: Jeffrey Scales


 「ナイトクローラー」、都会の夜の徘徊者をイメージしたのだろうか。よくわからぬが、アメリカ・アニメのキャラクターのことだろうか。クリスチャン・マクブライドのベースで始まるところが、ダークでかっこよすぎる。中山康樹氏が『マイルスを聴け』で「ク〜ッたまらん」と叫ぶ感覚がわかる。「ク〜ッたまらん」のだ。叫んでみればわかる。体験なのだ。チープで単純な表現だが、まさに「ク〜ッたまらん」なのだからしかたない。何度聴いてもこの体験は沸き上がってきて、そのたびに新鮮だから、なんなのだろう、この曲とその演奏は。ブラッド・メルドーのあの不思議なタイム感覚に「ク〜ッたまらん」と叫んでしまうことがあるけれど、その場所はここだと特定するよりも、その音の流れにそう感じるので、ここだけを繰り返し聴くということはない。しかし、この「ナイトクローラー」は、何度も再生してしまう。こういいながら、また戻って「ナイトクローラー」の出だしに耳を傾ける。途中からは、ブライアン・ブレイドのスティックさばきに耳の波長を合わせる。まったく、「ク〜ッたまらん」曲だ。

 しかしだ。今日は、他の曲も聴いてみようと決心する。そう決心が必要なのだ。

 「アンブロシア」とはうまい食べ物なのだろうか。美しく怪しい雰囲気とおいしいメロディが続く曲は、食べると不老不死になるというアンブロシアを歌う。それは神の食べ物だ。ブライアン・ブレイドのたたき出すリズムが、近づき、離れて奥行きをつくって、神々の食べるアンブロシアの甘くて危険な香りをくっきりとさせるようだ。好奇心と怖れは、波のように行ったり来たりする。

 「ジェームズ」は、パット・メセニー・グループが『オフランプ』で発表した曲で、ジェームズ・テーラーの曲イメージを思い浮かべてパットとライル・メイズがつくったらしい。ボブ・ジェームスを歌った曲ではないけれど、ボブ・ジェームスがいかにも好きそうな甘さがあって、彼には特別な曲のはずだ。ぼくだって自分の名前がタイトルになっている曲があって、そこそこすてきな曲だったら宝箱に入れておくだろう。名前とは不思議なものだ。

 ファンキーなホレス・シルバーの曲、「ジョディ・グリンド」を甘くするだけではなく、バップフレーズを入れるボブ・ジェームス。やればできるではないか。たまには極上のストレートなジャズをこのようにやって欲しいと願ってしまう。お願いだ。

 「ロスト・エイプリル」といえば、ナット・キング・コールであろうか。失った四月なんて、雪国の人にとっては闇の奥深くに突き放されるような歌だし、誰にとっても悲しいものなのだ。ボブ・ジェームスのピアノは、感情を失ったかのように響き、そして打ちひしがれる恋心のようにふるえる。ブライアン・ブレイドが素晴らしい。

 「三匹の目が見えないねずみ」マザー・グースの絵本にあるものだろう。

Three blind mice, See how they run!
They all ran after the farmer’s wife,
Who cut off their tails with a carving knife.
Did you ever see such a thing in your life
As three blind mice?

3匹の目の見えないネズミ 走る走る
農家のおかみさん 追いかけまわす
おかみさん 肉切り包丁で 
ばっさり しっぽを切り落とした
こんなもの みたこと あるかい?
3匹の目の見えないネズミ

 おかみさんは残酷だ。その影には、イギリスのブラッディ・マリーがいる。女王メアリー1世だ。ネズミたちは、三人の貴族。ブラッディ・マリーが嫌いなプロテスタントで、次々とプロテスタントを迫害していく彼女に反対した。ブラッディ・マリーは、三人を共謀罪ではりつけにして火あぶりにする。こんな残忍な女、みたことあるかい?となわとびをしながら歌うのだ。ここでもブライアン・ブレイドが素晴らしい。

 「ホックニー」は、デヴィッド・ホックニーを歌ったんだろうか?わからない。ボブ・ジェームスのピアノに硬質さを感じる。エンディングのクリスチャン・マクブライドがいいなぁ。たまらない。

 邦題は、ないけども、「流星」でいいかな。ボブ・ジェームスがもともと物語好き、絵本好きなのか、それともアルバム・コンセプトなのか判断がつかないけれど、ファンタジーさを持った曲名が続く。流星を象徴するボブ・ジェームスのピアノの出だし、流れる奥行きを持ったリズム、ダークな夜空を描くベース、素晴らしい。

 最後は、「クワイエット・ナウ」だ。ビル・エヴァンスの十八番でしめくくる。ピアノ・トリオの正しいナンバーといえばいいのだろうか。たぶん、ボブ・ジェームスは、生のジャズをやりたかったのだ。『ストレート・アップ』、アルバム・タイトルは、[水で割らない, 生の]という意味らしい。まさにストレート・アップなジャズをしめくくるのに、ふさわしい曲ではないだろうか。フージョンばかりではなく、こういう生ジャズをやって欲しい。

さあ、最後にもう一度、「ナイトクローラー」。ク〜ッたまらん。

Bob James (p)
Chritian McBride (b)
Brain Brade (ds)
1995

  1. Nightcrawler (Bob James)
  2. Ambrosia (Bob James)
  3. James (Pat Metheny / Lyle Mays)
  4. The Jody Grind (Horace Silver)
  5. Lost April (Newman / De Lange / Spencer)
  6. Three Mice Blind (Bob James)
  7. Hockney (Bob James)
  8. Shooting Stars (Bob James)
  9. Quiet Now (Denny Zeitlin)